黄昏れ時~昼でも夜でもない神秘的な時間~に、凛と佇む女性が詠んだ恋の歌
誰そ彼と われをな問ひそ 九月(ながつき)の 露に濡れつつ 君待つ我そ
昼でも夜でもない夕方、だんだん暗くなって、道で出会う人の顔が見づらくなる時間帯を「黄昏れ時(たそがれどき)」と言います。その語源となったのがこの歌。万葉集に残る、作者不詳の恋の歌【相聞歌(そうもんか)】です。
今回はちょっと趣向を変えて、”畳の上の格闘技”、競技かるたで使用される小倉百人一首より、もっと時代をさかのぼり、万葉集の世界をご紹介させていただきます。
今のように街の灯りのない時代、夕暮れ時になると、人の顔の見分けがつかなくなります。
もしかすると魔物かもしれないから、出会った人には「誰そ」と問いかけて正体を明らかにしていたそうです。
「誰そ」と問いかけられた時の返答が、この歌なのです。
誰だあれは?と私のことを聞かないでください
9月の露に濡れながら、愛しいあなたを待っている私です。
この歌は女性が詠んだ歌とされています。
万葉の時代、名前を問うことには、もう一つの意味合いがありました。
男性が女性の名前を問うのは、プロポーズの意味を持っていたそうです。その問いに答えて自分の名前を明かすのは、プロポーズを受け入れることなのだとか。
この歌は、名前を尋ねられているから、女性の歌なのですね。
でも彼女は、名前を明かそうとしません。名前を明かすのは、ただ一人。そしてただ一度。
万葉の時代の女性は、もしかすると、今私たちが思うよりも、ずっと自立していたのかもしれません。
か弱く待っているのではなく、強い意思を持って、凛として立っている女性の、美しいシルエットが浮かび上がってくる気がいたします。
この歌が詠まれた旧暦の9月は、「長月(ながつき)」とも言われます。秋の夜長が始まる月という意味で、「夜長月(よながつき)」が語源と言われています。
愛しい人が現れたら、二人は楽しく幸せなひとときを過ごすことでしょう。
2016年に公開されたアニメーション映画『君の名は』で、主人公の二人、 瀧と三葉が出会ったのは、まさに「黄昏れ時」でした。
この映画には、お互いの名前を問いかけることがどれだけダイジか、そんな意味合いも込められていたのですね!
秋の夜長が始まる季節の黄昏れ時、もしかしたら、現代を生きる私たちにも、素敵な出会いがあるかもしれません。
そんな想いを抱きながら、夕暮れ時の街を歩くのも楽しいそう!
でも脇見していて怪我しないように気を付けて(^_-)-☆
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